秋の澄んだ空気が肌に心地よく触れるころ、群馬・赤城山では紅葉が山肌を染め上げます。
覚満淵の静かな湿原を歩き、長七郎山の頂を目指す道のりは、派手さよりも深い彩りに満ちていました。
黄金色の光に包まれる瞬間に、季節の移ろいが心に沁みていきます。
紅葉に誘われて——静けさと彩りに包まれる赤城山の秋
秋本番。皆さんは今年の紅葉狩りの計画はお済みでしょうか。
紅葉の名所と聞くと、日光や京都を思い浮かべる方が多いかもしれません。ですが、今回私が選んだ旅先は群馬県の赤城山。上毛三山の一つとして知られるこの山は、山頂に広がるカルデラ湖(大沼・小沼)や湿原(覚満淵)など、豊かな自然が織りなす紅葉の景観が魅力です。意外にもその美しさは、あまり知られていません。
「知っているようで知らない」赤城山の紅葉を見たくて、千葉から車を走らせました。
旅の最初は「東洋のナイアガラ」と呼ばれる吹割の滝へ。迫力ある滝を堪能した後、覚満淵の湿原を歩き、長七郎山の軽登山へ挑戦します。そこで出会ったのは、黄金色のススキが風に揺れる感動的な光景でした。
本記事では、私が実際に体験した赤城山の紅葉旅を、写真のように思い浮かべられるようにレポートします。日光のような華やかさではなく、静けさと清らかさの中で輝く秋をお届けします。
「東洋のナイアガラ」吹割の滝で紅葉と自然の迫力を体感
東京近郊から群馬へ——ドライブで高まる紅葉への期待
赤城山を目指す道のりは、長距離ドライブそのものが旅の一部です。高速を北上するうちに、都市の景色が次第に田園へと変わり、群馬に入る頃には黄金色の田畑と赤く染まったリンゴ畑が広がります。澄んだ空気とともに、少しずつ旅の実感が湧いてきました。
最初の目的地は沼田市の吹割の滝(ふきわれのたき)。その壮大な姿から「東洋のナイアガラ」と呼ばれる名瀑です。

岩盤を裂くように流れ落ちる滝、自然が描くアート
吹割の滝の特徴は、巨大な岩盤が裂けたような独特の地形。そこへ轟音とともに大量の水が流れ落ちる様子は圧巻です。遊歩道を歩き、滝壺を上から覗き込むと、吸い込まれそうなほどの迫力に思わず息をのむほど。
崖の岩肌をよく見ると、風雨や水流に削られて生まれた模様が浮かび上がっています。動物や人の横顔のようにも見え、自然の造形の面白さに見入ってしまいました。光の角度によって表情を変える岩々は、まるで自然が描いたアート作品のよう。滝の音に包まれながら、自然の力の美しさを肌で感じられる場所です。

旅の始まりを彩る、炭火焼きの鮎と里の味
滝を堪能した後は、近くの休憩所で一息。炭火で焼かれた鮎の塩焼きが香ばしい香りを漂わせていました。
黄金色に焼き上がった鮎は、皮はパリッと香ばしく、身はふっくら。シンプルな塩味が素材の旨みを引き立てます。地元で採れた新鮮な鮎ならではの味わいで、旅の疲れも自然と和らぎました。吹割の滝の壮大な景観と、この素朴な郷土の味。どちらも「旅が始まった」と感じさせてくれる瞬間でした。

黄金に染まる湿原——覚満淵の草紅葉と静寂の癒やし
おのこ駐車場からほど近く、赤城公園ビジターセンターの向かいにある「覚満淵(かくまんぶち)」。かつて火口湖だった場所が湿原となり、今では静かに広がる黄金の草原が訪れる人を迎えます。
草花が主役、風に揺れる草紅葉の美しさ
覚満淵の紅葉の主役は木々ではなく、湿原に生える草花たち。秋が深まるにつれ、緑から金色、そして赤茶へと変化し、まるで大地そのものが染まっていくようでした。
風に揺れる草紅葉が陽光を反射し、水面に映る光とともに淡く揺れる光景は、どこか懐かしく、穏やかな時間を演出します。ここでは、賑わいの中で見る紅葉とは違う、「静けさの中の美しさ」を堪能できます。

木道を歩きながら感じる自然のリズムと「逆さ紅葉」
覚満淵の周囲には木道が整備され、約30分ほどで一周できます。スニーカーでも歩けるほど快適で、湿原のすぐそばを歩くと、湿地特有の植物や野鳥の声を間近に感じられます。

道中では、山々を彩る紅葉と草紅葉のコントラストが見事。さらに、水面には青空と紅葉が鏡のように映り込み、幻想的な「逆さ紅葉」の景色を楽しむことができます。静かな風と光の中で過ごす時間は、まさに心の洗濯のようでした。

赤城山のもう一つの顔——赤城公園の静寂
高台から見下ろす覚満淵の黄金の絨毯
覚満淵のすぐ上に位置する「群馬県立赤城公園」では、先ほど歩いた湿原を上から一望できます。
上空から見ると、湿原全体が黄金色の絨毯のよう。周囲の山々との地形のつながりもわかり、赤城山がいかに雄大な自然を抱いているかを実感できます。


長七郎山登山で出会う、ススキと紅葉の大パノラマ
賽の河原から山頂へ——秋色に包まれた登山道を歩く
覚満淵を後にし、小沼のほとりを抜けて登山口「賽の河原」へ。
ここから標高1,579mの長七郎山を目指します。序盤は緩やかな道が続き、色づいた木々のトンネルをくぐるように進みます。足元の落ち葉がふかふかと柔らかく、時折差し込む陽光が森を黄金色に染めていました。
やがて登山道は岩や木の根が目立つ急斜面に変わり、息が上がるたびに背後の紅葉が遠のいていきます。静かな森の中、聞こえるのは自分の足音と風の音だけ。自然と一体になるような、穏やかな時間が流れました。

山頂を覆うススキの海と関東平野を望む絶景
稜線に出ると、一気に視界が開けます。
目の前に広がるのは、黄金色のススキが風に揺れる壮大な景色。陽光を受けて輝く様は、まるで銀色の波のようです。
山頂からは覚満淵や小沼、大沼を一望でき、晴れた日には関東平野の向こうに筑波山まで見渡せます。
紅葉とススキ、青空が織りなす自然のグラデーションはまさに秋の芸術。派手さではなく、静けさの中に宿る力強い美しさがここにはありました。

旅の終わりに——赤城山がくれた静かな感動
次に訪れたい赤城の紅葉名所
今回は吹割の滝から覚満淵、小沼、長七郎山までを巡りましたが、赤城山にはまだ多くの見どころがあります。
- 大沼と赤城神社:朱色の社殿が湖面に映える神秘的な光景。湖畔を歩いたりボートから紅葉を眺めたりと、多彩な楽しみ方ができます。
- 鳥居峠:赤城山のカルデラ湖全体を見渡せる展望スポット。早朝には雲海と紅葉の絶景が広がります。

自然が心に残す、もう一度訪れたい秋の記憶
千葉からの長旅を経て、吹割の滝の迫力、覚満淵の静けさ、そして長七郎山の絶景をめぐった今回の旅。
赤城山は、派手さではなく静かな感動をくれる場所です。カルデラ湖や湿原が織りなす独特の地形、そして季節が描く色彩の変化。
それらが静かに心に残り、また訪れたいと思わせる——そんな秋の名山でした。



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